売上至上主義から顧客満足至上主義へ。大きく方針転換したメディプラスのこれまで、現在、そして今後について(前編)

売上至上主義から顧客満足至上主義へ。大きく方針転換したメディプラスのこれまで、現在、そして今後について(前編)


代表取締役 恒吉明美 × COO 扇竜平 対談(前編)

メディプラスの代表取締役社長である恒吉明美と、2017年5月に取締役COOに就任した扇竜平による初めての対談。
言葉にしなくても阿吽の呼吸で通じ合う部分が多いからこそ、これまで口にしてこなかった思いを、恒吉社長が産休に入る直前のタイミングで、バトンタッチの意味も込めて、あえて言葉にして語り合ってもらいました。
司会進行は、恒吉とともにメディプラスを創業した取締役副社長でCSO(チーフ・スマイル・オフィサー)の岡元朋子。
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株式会社メディプラス取締役COO 扇竜平 インタビュー

ワクワクするために必要だった方針転換

―2012年にロイ(扇のニックネーム。ニックネームで呼び合うのはメディプラスの習慣の1つ)が入社して以来、ロイは販売部部長、事業企画部部長をつとめて、社長の恒吉さんを支え、二人は苦楽をともにして会社を引っ張ってきたわけですが、これまでの道のりを振り返ってみて、すごく苦労したこととか、ピンチだったことは何ですか?
恒吉:一番のピンチは、2014年に「戦艦から客船へ」「売上至上主義から顧客満足至上主義へ」という大きな方針転換をしたことですね。何が大変だったかというと、根底にあったのは、望んだとおりに会社の業績がよくなったのに、私自身がワクワクしなくなったことだったんですよね。「通販新聞で成長率の1位になること」を目標にして頑張ってきて、2期連続で達成して、前年度比230%の成長率も達成したのに、ワクワクしない自分がいて。「上半期の成績がいいから上方修正しましょう」ってロイから提案をもらったときに、「とはいっても……」みたいな感じで消極的なことを言ってたら、ロイが「社長、いったん喜ぼう」って言ったんですね。その言葉にハッとして。「そうか、私はもう、(これまでの目標を達成しても)喜べなくなってるんだ」って気がついて。そこから「自分が本当に望んでいることは何なのか」って自分に向き合うようになったんです。それがちょうど40歳になったときで。
「売上100億円」を目標に掲げて走ってきたのに、その数字に意味を見出せなくなってしまって。何をやりたいのかもわからない。「みんなで考えて! もうわかりません! 助けてー!」みたいな(笑)。そこから不眠と過労ですっかり自律神経のバランスを崩してしまって、私自身も働き方の方向転換を余儀なくされたんだけど。
「めざせ! 売上100億円!」って宣言して、みんなを巻き込んでやってきたのに、こぶしを振り上げていた本人がそのこぶしを下ろすことになって、まずやったことは、みんなにあやまること。社員に対してもパートナー企業の人たちに対しても、なぜこういう気持ちになったのかというプロセスを、一人ひとりに説明して誠心誠意あやまりました。それ以降、チーム総会(関係者やパートナー企業の方々に、活動報告や事業方針、今後の計画について説明して理解してもらうためのイベント)をやったり、客船ラフライン号(メディプラスの事業を船の航海にたとえ、お客様と自分たちクルーが乗る船をラフライン号と呼ぶ。ラフラインとは「笑いじわ」のこと)のクルーみんなで今まで以上にしっかりと目的地や問題意識を共有するようになりましたね。私たちの目指すゴールは売上ではなく、お客様とパートナー企業、そして私たちの「笑顔」、それも「ずっと続く笑顔」だって。






 ―ロイから見て、そういう会社の方針転換をどう感じていました?
扇:僕は、健全というか健康的な思考の変化だと思いましたね。会社の成長とか、売上とか、メディプラスゲルを普及させたいとか、そういう創業以来の目標がある程度、達成できたときに、恒吉さんが立ち止まって、自分の人生を振り返って「私の幸せとは?」とか「次の目標は何だろう?」って考えたことは、僕はすごく健全だと思います。ただやっぱり、最初に方針転換を聞いたときはビックリして「ええっ!?」って思ったけど(笑)。
恒吉:思うよね。とくにロイのように、明確に数字を目標として追ってきた立場だったら。
扇:今までアクセルをベタ踏みにして疾走してきたのを、突然ふっと緩めることに対して「ほえっー?」ってなりましたね。とは言っても、仕事に没頭してきた恒吉さんがちょっと立ち止まって自分の人生について考える中で、おそらく社会の変化とかニーズみたいなものも直感的に察知して船の針路を変えたんだろうとも思っていたので、僕は「(方針転換に)沿おう」という気持ちでした。それで、ブランド企画部を立ち上げて、ブランディングを強化したり、通販に限定せず店舗をやってみたり、という新しい挑戦をいろいろはじめました。

影響力があるからこそ採用は大きな賭けだった


―では少し時間を巻き戻して、お互いのファースト・インプレッションを聞きたいんですが、2012年、恒吉さんはロイに初めて会ったとき、どんな印象を持ちましたか?
恒吉:「笑いと鋭さ」を持った人だなと。会話の端々にユーモアがあって、ウィットに富んでいて、おもしろい人だなって思いました。と同時に、意志の強さがあって、「自分はどう成長したいのか」「この会社にどう貢献したいのか」、この2つをはっきりと持っていた。だから、ロイが会社に入ったら影響力のある人になるのは間違いないんだけど、だからこそ「賭けだな」と思ったんです。

―その「鋭さ」が対立の方向へ行ってしまったら、ということですか?
恒吉:そう。彼の存在が吉と出るか凶と出るか、勝負だなと思いましたね。
扇:いま恒吉さんがオブラートに包んだ部分を僕なりに解説すると、僕は性質的に相手を説得するために正論や数字を使って、相手がぐうの音も出ない状況へ持っていってしまうところがある。それって、その場は自分の思い通りに話を進めることができても、トータルで見たら、みんなの納得感を得られず、いい結果にならないことが多い。「鋭さ」の副作用については、この会社に入ってから自覚するようになりました。

―じゃあロイから見た恒吉社長の最初の印象は?
扇:前職でも同業だったので、メディプラスのことは広告を見て知ってましたし、恒吉社長が努力して丁寧に人を巻き込みながら成長してる会社だなってことは感じていました。恒吉さんのこともメディプラスの広告で見ていたんですが、本人に会ったら、広告で見ていたときのイメージとのギャップが大きくて(笑)。恒吉さんのおもしろキャラを伝えるエピソードも広告のマンガで目にしてたんですが、マンガより本人のほうがはるかにおもしろくて、そのインパクトがすごくありました。とくに、感情で人の心を揺さぶるやり方とか、予想をはるかに超えていてエンターテイナーだった。

―それを初対面で感じたんですか?
扇:正確な表現はちょっと違ったかもしれませんが、「私がこれまで人一倍やってきたことがあります。さて何でしょう!?」みたいなことを質問されたんです。すごく試されてる感じがありました。
恒吉:よく覚えてるね! そうそう、その答えは「あいづち」。話を聞くときにずーっとヘッドバンキングするのが癖で……(笑)。
扇:その癖が示している通り、「恒吉さんの強みは共感力だと思います」みたいなことを答えたのを覚えています。相手への気配りと、人を受け止める共感力が半端じゃない。それはおそらく一流の接客業の人が備えている能力なのかもしれないですね。






「空」を読む社長と「雨・傘」担当のロイの連携プレー


―それから5年以上が経過して、現在はお互いのことをどんなふうに見ていますか?
扇:一緒に仕事をしてきた人の中で一番の天才だと思っています。身内褒めになってしまいますが、こういう機会でもないと言葉にすることもないので、あえて言いますが、頭の回転がすごく早いし、しかも誰よりも回転させ続ける集中力、持続力を持っているので「実現力」がすごい。つまり、天才でいて努力家。普通の人だったら諦めることも、「いや、ちょっと待てよ」と言って練り直して実現してきた。細部まで手を抜かない。さらに人の心に火をつけることも得意だから、求心力とかディレクション力と言ってもいいんですが、僕は「実現力」という言葉を使いたいですね。

―諦めずに実現するところについて、恒吉さん自身は、なぜだと思いますか?
恒吉:それは自分でもよくも悪くも私の特徴だなと思ってるんです。「なぜ諦めないのか?」という質問に対しては、逆に「なぜ、みんなは諦められるの?」って聞きたい(笑)。でも、それもよしあしで、諦めが悪いことで、まわりに迷惑をかけたり、失敗することも多くて。

―恒吉さんから見て、ロイは会社に入ってから、どういうふうに変化、成長してきたと感じますか?
恒吉:ロイが成長したというよりも、ロイが入ったことによって、まわりが成長しましたね。その理由は、ちょっと詩的に朝顔の鉢植えでたとえると、それまでは朝顔(社員たち)に向かって太陽(私)が日光を注ぐと朝顔が共感してくれてぐんぐん伸びる、みたいな感じだったんだけど、私はそれを本能的にやっているので、「どう伸びたらいいのか」という具体的な指示はできてなかったんです。そこにロイが入ってきたことで、朝顔の鉢植えに、つるが巻きつく支柱の棒ができた。






―みんなが「ここに絡みつけばいいんだ」ってわかったわけですね。
恒吉:そう。要するに、予算表であったり仕組みであったり、フレームをくれる人がいなかったところに、ロイが入ってきたことで、「こっちに伸びたらいいのか!」ってみんながわかったのは、すごく大きな変化でした。

―そういうスキルをもった人、コンサルタント的な能力が高い人なら他にもいると思うんですが、ロイの場合は、どんな点で優れているんでしょうか?
恒吉:「この人と関わりたい」「何かを一緒にしたい」って思わせる魅力を持っている。何かにつけて「ロイなら何て言うかな?」「ロイの考えを聞きたい」って思う。朝顔の鉢に棒を立てたとしても、朝顔がそこに絡むかというと、そうじゃないこともあるわけで、その人自身が魅力的だから、みんなが絡みつきたいと思った、ということだと思う。

―恒吉さんの期待に対して、ロイはどういう心境でした?
扇:「空・雨・傘」という問題解決のための思考法があって、これは恒吉さんから教えてもらったんですが、「空(事実認識:空が曇ってきた)→雨(解釈:雨が降りそう)→傘(判断:傘が必要だ)」という3つのステップのうち、恒吉さんは「空」が得意なんです。空の色のかすかな変化を察知して「ねえ、あの空を見て!」って真っ先に声を上げてみんなに知らせる。恒吉さんの評価では、僕はどちらかというと雨と傘が得意で、「雨降るよ。誰か傘持ってきて」って言う係。恒吉さんは「社会のこういうところを、こんなふうにもっとよくしたい!」という理想やヴィジョンを語る人で、「じゃあ僕らは何をどうするのか」ということを具体的に提案したり、数字にしてみたりっていうのが僕の役割なんだと思います。しかし、まだまだなので精進します。

―自分が得意とすることを恒吉さんから期待されて、うまくマッチした感じですか?
扇:僕よりももっとスキルのある人はたくさんいるけど、「その仕事ができる」×「この会社が好き」の数値が高い自信はありました。同じスキルがある人の中で、僕ほどこの会社を好きな人はいないだろうなって。






―それは最初から思ってたんですか?
扇:最初から会社の水が合いました。みんなノリがいいけど引っ込み思案で、雑だけどあったかい、そんな風土でした。たとえば、人事総務担当が事務的な連絡を全社メールで送り、全員が律儀に「了解しました!」と全返信で送る。そんなやりとりが日々起きる。情報の伝達性だけを切り取れば非効率ですが、何の返事もないより仕事の貢献感は高まる。ちょっと過剰かもしれませんが(笑)。

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